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最高裁判所第一小法廷 昭和24年(オ)135号 判決 1953年6月25日

主文

原判決を破棄する。

第一審判決を取消す。

本件訴を却下する。

訴訟の総費用は全部上告人の負担とする。

理由

上告代理人我妻武雄、中村益之助の上告理由は別紙の通りである。

職権を以て調査するに、

原審判決の事実摘示によれば、上告人が本訴の請求原因として主張するところは、

「債権者たる訴外保証責任大山崎村信用販売購買利用組合は、昭和一四年三月一三日被上告人を債務者として、債権限度二千円の当座貯金貸越契約を締結し本件土地建物に根抵当権を設定せしめたが、昭和一八年四月三〇日京都区裁判所に対し右抵当権に基き不動産競売の申立を為し、同裁判所は同年(ケ)第一〇号事件として即日競売開始決定を為すと同時に職権を以て競売申立の登記を嘱託した。上告人は右競売事件に於ける昭和一八年六月二四日の競売期日に最高価金七千二百十四円を以て競買申出を為し、同月二八日同裁判所より競落許可の決定を受けた。然るに代金支払期日である同年七月二一日上告人がその支払を怠つたため同裁判所は再競売を命じ、その期日を同年八月一九日午前一〇時と指定告知したが、右期日は同年同月一六日に職権を以て変更せられ再競売期日は未定のままであつたところ、昭和一九年一月七日債権者たる組合は京都区裁判所に対し競売申立の取下を為した。ところが同裁判所はその取下を有効なものとして取り扱い登記官吏に嘱託して本件不動産に関する前記競売申立の登記を抹消せしめるに至つた。然し乍ら競売申立人である訴外組合の右取下は競落期日前最高価競買申出人である上告人の同意を得ることなくして為されたものであるから取下としての効力を生じないものである。よつて、上告人は競売手続の進行を求めるため、上告人の同意なくして為された無効な競売申立に基く右抹消登記の回復を求める必要があるので、訴外組合に対しては回復登記手続を、被上告人に対しては右登記についての法律上の利害関係人として回復登記手続に対する同意を求めるため本訴請求に及ぶ」という趣旨のものである。

そこで、競売法二三条によれば、不動産競売申立人は競落期日までは最高価競買申込人の同意ある場合に限り申立の取下を為すことを得るが、競落許可決定のあつた後は申立人の任意に取下を為すことを許さず、ただ利害関係人全員の同意ある場合にのみ取下を為し得るものと解すべく、このことは一旦競落許可決定があり代金不払によつて再競売が行われる場合においても同様である。そして再競売の行われる場合には、代金の支払を怠つた従前の競落人は民訴法六八八条四項(競売法三二条二項により準用)により、再競売期日の三日前までに買入代金、代金支払期日より代金支払までの利息及び手続の費用を支払うことによつて、目的不動産の所有権を取得することを得るのであり、而も競落人はこれによつて民訴法六八八条五、六項所定の不利益をも免れるのであるから、代金不払後の競落人は、再競売期日の三日前までは前示の金員を支払つて競売不動産を取得する権利を有するものと解すべく、従つて前示利害関係人の中には代金不払の競落人も当然含まるるものと謂わなければならない。

然らば上告人が競落人として代金の支払を怠つたため競売裁判所たる京都区裁判所により再競売が命ぜられ、一旦指定された期日が変更されて期日未定の間に、競売申立人が単独でその申立を取下げたとするならば、この取下は固より無効と言わなければならない。然し乍ら右取下が無効である以上本件競売手続は引続き京都区裁判所に繋属し、裁判所法施行後は同法施行令三条により京都地方裁判所に依然繋属しているものと謂うべきである。上告人は右競売手続の続行を求めるため本訴請求を為すというのであるが、競売裁判所が競売の取下の不適法であるに拘らずこれを有効視して手続を続行しない場合には、利害関係人はこれに対し民訴法五四四条により所謂執行方法に関する異議を主張し、その理由あるときは、競売裁判所は手続を進めると共に、上告人主張の競売申立登記の抹消登記の回復は職権を以てこれを嘱託すべき筋合であるから、上告人は競売手続の続行を求める前提として独立の訴により抹消登記の回復又はその同意を求むべき何等の利益をも有しない。そして一般に執行方法に関する異議の申立によりその目的を達し得る場合には、訴を以て主張する利益がないというべきであるから、本訴は上告人の主張自体よりして訴の利益なしとして却下すべきものと言わざるを得ない。然らば上告人の請求を認容した第一審判決及びこれを取消して請求を棄却した原判決は何れも法令の解釈乃至適用を誤つた違法があるというべきである。

仍て民訴法四〇五条、四〇八条一号、九六条、八九条を適用し裁判官全員一致により主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)

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